カウンセリングとは、クライエントのもつ資源を最大限に活用する援助です。
つまり、クライエントがさまざまな人生の問題に直面し、苦しみ悩むときに同行者としてそのプロセスをともに歩んでいくことです。
なぜなら、ひとは話を聴いてもらっているうちに、自然に自分自身の心の内面を見つめているからです。それが自分と向き合うことだと私は思います。
ですから、カウンセラーに自分自身の問い(悩み)を話しながら、その問いにどう答えるかは、カウンセラーではなく自分自身なのです。
カウンセリングとは、その気づきをもたらすプロセスでもあるのです。
不妊カップルは治療をする・しないに関わらず、その悩みや不安は尽きません。言葉は悪いようですが、わかりやすくいえば、「不妊はギャンブル」のようなものだからです。どうなるかわからないという不確実性、今度こそはと期待し、裏切られるという「乗ったら降りられないエレベーター」のような感情に悩まされるのです。そして、結婚すれば子どもができて当然と思われている家族や友達にはなかなか理解されないというジレンマもあり、「言えない」ということが一番辛いのだと私は思っています。
そんなときにじっくり話を聴いてもらえると、背負った荷物を降ろせるような実感があるのではないでしょうか。
「不妊」とは、状態そのものが、すでに当事者たちの人生において経験するこころの傷のひとつです。
さらに治療を始め、周期ごとに妊娠に至らず、その繰り返しによりさらにその傷は増えていくばかりです。
どのようなストレスを感じているかを
専門的な心理的援助を通して認識・対処していくことが必要と考えます。
不妊カップルは、生殖補助医療技術が不妊治療の最終手段として認識しているため、それを精神的・時間的・経済的に許せる限り治療から降りることができません。それは、親になること、子どものいる幸せな家庭、妻として嫁としての存在価値、治療にかける時間や費用、仕事などすべてを失い、さらに、子どもを産める身体であるという確信をもつために、「今」を今度こそと治療に全力投球し続けるのです。
皮肉にも医学の進歩は目覚ましく、最新の生殖補助医療技術を追求するばかりにその強迫観念から、不妊カップルは今とその将来をかけて、願いが成就しないかもしれない長いときを「不妊」のなかで過ごすことになるのです。
問題は、生殖補助医療技術における妊娠率などのエビデンスにとらわれすぎて、不妊カップルのQuality of lifeに重要なメンタルケアの対応が立ち遅れている現状です。そこで、適切なサポートを行うために、どのようなストレスを感じているのかということを専門的な心理的援助を通じて認識・対処していくことの必要性があると私は考えています。
しかし、本当にカウンセリングが必要かどうか、どんなことを悩んでいるのか、どのようなカウンセリングのしくみがあれば役にたつのか・・・という議論は、みなさまの声を参考にさせていただこうと思っています。
確かに正しい情報や治療の見通しを提供する、精神的サポート、カップルの治療への自己決定を促すなど、すでに不妊カウンセラーの定義はありますが、実際にどうなの?
本当に必要としている?誰に相談したい?
という問いが私にはあるのです。
いま参考にしたいカウンセリングの内容や方法は以下の通りです。関心のあるかたは読んでいただければ幸いです。
不妊カウンセリングにはこのような資格をもった人たちや支援してくださる団体が関わっています。
生殖・不妊心理 カウンセラー |
不妊カウンセラー 体外受精コ-ディネ-タ- |
Fineピア・カウンセラー | 認定看護師 | |
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制度の創立 | 2005年 | 2002年 | 2005年 | 2002年 |
有資格者数 | 10名(予定) | 786名(不妊カウンセラー、体外受精コーディネーターの合計、2005年10月現在) | 約10名(予定) | 40名(2005年現在) |
対象 | 臨床心理士を中心とした精神保健専門家 | 医療関係者(医師、看護職、エンブリオロジストなど)、不妊患者、その他 | 不妊体験者 | 実務経験のある保健師、助産師、看護師 |
認定団体 | 日本生殖医療心理カウンセリング学会 | 日本不妊カウンセリング学会 | NPO法人Fine(現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会) | (社)日本看護協会 |
養成 | 学会主催の養成講座(90時間)
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学会主催の養成講座(年2回、1回約10.5時間)、学術集会への参加
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会主催の養成講座(90時間)
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6ヶ月の研修(645時間)
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認定方法 | 養成講座修了者に 認定試験 |
養成講座を3回以上受講の後試験 | 養成講座修了者に 認定試験 |
教育課程修了後 認定審査 |
特色 |
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問題点 |
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不妊状態の当事者たちは、いつも同じ心理状態ではありません。
生殖医療の段階によっても異なり、段階ごとのサポートが必要だと考えます。
- この時期は自分が不妊であることを知らない時期であり、子どもの有無は自分で決められると信じています。この時期はカウンセリングの必要はありません。
- 「想像期」にいた人が不妊によるストレスが強い状態である「混乱期」に移行するのは、「身近な人の妊娠・出産」「周囲からの外圧」「医療機関に受診する」という状態や行動によります。しかし、本人は不妊だとは認めたくない否認の時期でもあり、そのために医療に没頭し、かえって焦りを強くする特徴がみられます。そのためにうつ状態を引き起こしたり、対人関係の回避や感情の起伏が激しくなるのもこの時期です。
- この時期に入ると、当事者は少しずつ安定に向かいます。「対人関係の修復・開発」や自分が不妊であることを第三者に話すことができるようになります。また、生殖医療を利用するだけではなく、生きかたの問題として考え始めるようになります。さらに特徴的なのは、同じ体験をした人とコミュニケーションをとるようになったり、不妊治療以外のことに関心をもっていくなど、喪失していた自分の身体の信頼感を取り戻すことができる傾向が見受けられます。
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不妊体験を自分の人生に統合することができる時期になります。「不妊」と向きあってきた自分を受容し、その後の人生を、医療からの解放と不妊を生かすという変容に特徴が見られます。これまでがんばってきた身体に対する愛着や、パートナーとの絆やその後の生きかたを発見することなど、社会的にも自己回復していくようになります。
そのためには、不妊経験に意味を見出すことが必要なのです。
- 当事者の主体的な意思決定は、不妊治療において最も重要なプロセスです。そのためにカウンセラーは当事者が、医師から得られた情報を正しく理解し、不妊治療が本人または家族に与える影響や子どもをもつ意味について考えていくことの援助を行います。つまり、「どうすれば妊娠できるか」ということを医学的価値よりも、その人にとっての意味を大切に考えるために、当事者の感情や価値観、社会的役割などをもった存在全体として尊重し、人生全体を俯瞰しながら共に治療選択を考えていく支援を行います。
- 不妊であること、または不妊治療においてはさまざまな苦痛を伴います。そこで支持的カウンセリングでは、当事者が子どもを授からないことや、周囲や家族からのプレッシャー、不妊治療における妊娠率の低さなどの苦痛に対処する方法を見出す援助をおこないます。そして、治療中のストレスマネジメント指導など、ストレスフルな状況に自分なりに対処できるようになることを目標とします。
- 専門的な心理療法を用いるカウンセリングを指します。対象は、個人、夫婦、家族、グループなどさまざまです。
不妊カウンセリングには、生命倫理に関連した複雑な問題が多いため、カウンセラーの関わりだけでなく、チーム医療体制のなかでその役割を分担し、科学的/合理的根拠に基づく(EBM)と患者主体の医療である(NBM)の双方からの視点で支援する必要性があります。医療体制の詳細につきましては、今後の研究で検証していきます。
みなさまの声を中心に進めてまいりたいと考えておりますので、アンケートにご協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。
【参考/引用文献】
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久保春海「不妊カウンセリング」産婦人科治療、95巻2号、2007年
久保春海「ARTにおけるカウンセリングの重要性」臨婦産、60巻1号、2006年 - ※2
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平山史朗「生殖医療におけるカウンセラーの認定制度」産婦人科治療、91巻6号、2005年
森崇英・久保春海・高橋克彦『コメディカル ARTマニュアル』永井書店、2006年
―――平山史朗「生殖心理カウンセラーの認定制度」 ※2
―――矢野ゆき「個人開業カウンセラーによる生殖心理カウンセリング」 ※3
―――平山史朗「生殖心理カウンセラーの役割と資格」 ※4
- ※3
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矢野ゆき「『不妊』の受容過程の段階とその特徴―心理的援助のための考察―」
愛知淑徳大学大学院コミュニケーション研究科 1999年度修士論文、2000年