仕事をもって、なかなか出産しない女性を世間は「産まない女」とみなしてきました。しかし、その多くは「まだ産んでいない女」にすぎないのです。つまり、「産まない」ではない、まだ産んでいないだけで将来には子どもがいるというイメージでいる状態のカップルも多く、それは出産の先送りをし続ける状態でもあります。その背景には自分の人生を自由で謳歌しているというイメージが先行しますが、育児と仕事を両立できない、仕事を辞めたら住宅ローンが払えない、産休/育休など職場の同僚に迷惑がかかる・・・・・・などという眼の前に優先せざるを得ない事情もあるのです。
河合 蘭
『未妊―「産む」と決められない』
(NHK出版生活人新書)
35歳以上になると、年々妊娠率はかなり変わると言われています。
医師たちのほとんどが35歳を線引きにするのは、30代前半はまだごく小さな変化であるということと、晩婚化時代に33歳の締め切り設定では理想的すぎて現実的ではないからです。妊娠後のこと、分別後のこと、子どものことなどを総合的に考えると、医学的には30~35歳くらいまでが推奨年齢なのです。
女性たちの頭にあるプレッシャー年齢は5年刻みで、早い人だと30歳、多数派は35歳、ゆとり派は40歳であり、「駆け込み出産」組が大幅に増えています。
「35歳までは大丈夫」という先送りは、「高年初産婦」となりリスクも高く、さらに不妊という現実が背後にあることも否定できません。
【不妊治療を中断しているAさん/34歳の悩み】
治療をするには夫の理解と協力が必要。
夫は、子どもは欲しいけれども、先の見えない治療をして体やお金の負担をかけてまでは欲しくないというのがどうやら本音らしい。私は…、どうしても諦められないでいる。
今まで、何度このことを話し合ったか…。それでもなかなか答えがでない。
このさき年齢的に諦めなければいけなくなった時に、自分たちにできる事はやった!と言えるように治療をしたほうがいいのか。少しでも若い時に始めておけばよかったと後悔してしまうのではないか?
でも私の意見を通して治療を再開しても、授からなかったとしたら、それでも後悔するのではないか…。
治療にかけた時間とお金を夫婦の楽しみに使えばよかったと。
やっぱり、答えは出ない。
今は、あまり執着しなくて何か他のことに目を向けられたら、案外すんなり自然妊娠するかもしれないという期待と願いがある。
「自分の」、「好きな人の」子どもが欲しい
未婚者・既婚者ともに「自分の子どもがほしい」「好きな人の子どもを産みたい」という傾向が伺えます。また、「子どもをもつことで自分も成長できそうだから」という自己実現にともなう理由と、「自分の年齢的にリミットを感じているから」という年齢的な理由も多く伺えます。
それは、子どもが私に自分の命を預けているということが実感できるようになってからです。そう思うと、子どもがこんな私を「お母さんだ」と認めてくれるそのことは、すごいことだと思うのです。
そのため、子どもの誕生をコントロールする→晩婚化というライフイベントの先送りが多く見られるようになりました。
ただし子どもを「つくる」ことは、まだまだ自然には勝らないのが現状なのです。
ただ少し感じてしまったことは、上に立ち、束ねていく立場の方として計画性がなさすぎないでしょうか…。人手不足なのはもっと前からです。女性ばかりの職場ですから、妊娠出産などは当然多いと思います。しかしカバーできるように予め人員を増やす計画とかもなく、対策がどうも事後対策なんです。しかも今ベビーブームらしく先輩社員の方も妊娠で次々と産休に…。
本当にそれ自体は嬉しいですが、一緒に働く妊婦さんにも当然ですが、気をつかいつつ働く日々です。人手不足のツケは必ず私たちに回ってきます。残業もオーバーして上司に注意されるでしょう。まぁそんなことはいいのですが、上司で人一倍職場の状態を把握している立場にあるのに、何となく計画性に疑問を感じてしまいます。これはやはり私の心が狭いからでしょうか。狭い部分があるのは勿論わかっていますが、なんだかジレンマみたいなのを感じてしまいます。
現在では、多くの企業体が制度として産休・育休を設けるしくみとなり、働く女性は仕事と子どもの両立が可能になっています。しかし、そのしくみを精神的に取得することが難しいといわれています。どうしても同僚や仕事仲間への遠慮があって先延ばしにしてしまうケースも多く見られます。また、妊娠の境界線と同様、転職も35歳がラストチャンス?とも言われています。
キャリアアップしたいという自己実現、子どもを産み育てたいという自己実現、そのどちらかを選択するということは、どちらかを失うということなのです。
未婚者に現在独身にとどまっている理由をたずねたところ、25歳未満の若い年齢層では「まだ若すぎる」「必要性を感じない」などの結婚の必然性の欠如や「仕事(学業)」「趣味や娯楽」などの競合するものの存在、さらには「自由や気楽さを失いたくない」など、結婚をする積極的理由の欠如を意味する項目が多く選ばれています。しかし、25歳以上になると「適当な相手にまだめぐり会わない」という理由をあげる者が半数程度いるのです。ただ、この年齢にいたっても「必要性を感じない」「自由や気楽さを失いたくない」を選ぶ者は多く、とくに後者は若い年齢層よりも多く選ばれています。調査では、「適当な相手にめぐり合わない」、男性で「結婚資金が足りない」などがこれまでの減少傾向に反して増えるなど、全般にやや傾向が変わった一方で、「仕事(学業)にうちこみたい」は若い年齢層を中心に着実に増えており、とりわけ女性で顕著にみられます。
国立社会保障・人口問題研究所『結婚と出生に関する全国調査』2005年
現代の社会と家族のありかたが多様で、従来の家族制度とは違う価値観が生まれていることが、不妊と関係していると考えられます。
そのひとつが、現代の女性は母・妻以外の個としての生きかたの選択肢が増えたことによって、性別分業の必要性が弱まったことです。一見、自己実現や満足を志向する生きかたは、自己中心的で家族とのコミットメントが弱いようにも思えますが、家族が個としての生きかたを尊重し、相互に支援しているかたちを表しているともいえるのです。