社会問題を提起する不妊治療の実際
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  • <参考文献>
    荒木晃子「不妊心理に起因する『生殖医療の問題』に関する一考察」
    立命館人間科学研究、第16巻、2008年

  • 不妊患者は日本に10組に1組いると推定されており、生殖補助技術による不妊治療を実施する医療機関数は全国に500余りだといわれています。
    不妊治療を受けている患者は、自身の不妊であること、家族間の葛藤や悩みに加え、社会での生きづらさ、治療成果が確かではないこと、インフォームド・コンセントやカウンセリングの体制の遅れなどからもたらされるストレスに長期に渡ってさらされています。

    その当事者たちの思いは、個人的なこととしてあまり関心がもたれていないことが現状なのです。それゆえに不妊という苦悩について、その現状を伝えること、そして子供を望みながらかなえられない女性が、いかに今の不妊という状況に意味づけを行うことができるのか考えていきたいと思います。

  • このグラフは、セント・ルカ産婦人科による調査(2000年/354名)によるものです。
    生殖医療は適切だと思われる治療を行ったとしても、確実な成功が保証されているわけではありません。そのなかで、患者が納得して医療を受けるためには、このような悩みを丁寧に払拭しなければなりません。

    <参考文献>
    渡辺利香・宇都宮隆史「質問紙法(Questionnaire)による不妊患者の悩みの分析」『不妊カウンセリングマニュアル』メジカルビュー社、2007年

  • 当事者の悩みを具体的にあげてみました。

    <参考文献>
    増田千景「生殖心理の個人カウンセリング」『コメディカル ARTマニュアル』永井書店、2006年

  • 不妊の人々に対して、従来の母性観がもたらす弊害は想像以上のものがあり、不妊に対する周囲の無理解や干渉は、未だに根強くあります。

    <参考文献>
    母子愛育会『日本産育習俗資料集成』日本図書センター、2008年

  • 実際の不妊患者の苦悩についてまとめてみました。
    たとえば、「赤ちゃんはまだ?」という周囲の何気ない言葉に傷つく女性は少なくはありません。この言葉には、我が国に伝統的な根強い「子どものいる幸せな家庭」という暗黙の了解や、周囲からの跡継ぎに対する期待が込められています。
    いつの間にか子どもを産み育てないことは人格的な成熟の問題を問われるようになり、不妊を恥ずかしいこととしてとらえるようになります。

    それには「スティグマ」という言葉で端的に表すことができると考えます。スティグマには、肉体上の奇形、精神異常、人種、民族、宗教という集団的なものもあります。不妊患者の場合、身体的に劣っていると考える「肉体的スティグマ」と、結婚して子どもがいる多数派集団に属せないという「集団的スティグマ」を抱えていると考えられます。

    <参考文献>
    山口美穂「不妊患者モデルからみた心理分析法」『不妊カウンセリングマニュアル』メジカルビュー社、2007年

  • さらに当事者の根底にある高度生殖医療に対する不安や抵抗感について考えてみました。
    医学的な抵抗感としては、医学的知識がほとんどないことから技術や薬の安全性、副作用についての不安があるということ、身体的な苦痛が伴うことがあげられます。

    <参考文献>
    山口美穂「不妊治療に対する患者の意思決定に関するカウンセリング」『不妊カウンセリングマニュアル』メジカルビュー社、2007年

  • 妊娠に対する自然観から、体外受精は自然妊娠ではないことにためらうという倫理的な抵抗感があることも考えられます。
    さらに一番抵抗感を感じるのは、心理社会的なことがらにあります。まず、配偶者の協力が得られるかどうか、治療費を捻出できるかどうかという経済的な不安、仕事の継続が可能であるかなどが考えられます。

    <参考文献>
    山口美穂「不妊治療に対する患者の意思決定に関するカウンセリング」『不妊カウンセリングマニュアル』メジカルビュー社、2007年

  • 当事者とそれぞれの関係性における悩みの原因について――。

    当事者と社会との間の意識の差は大きく、壁があるように思われます。何故なら、子どもを望んでも得られないということは、社会的マイノリティだと捉えられるからです。「結婚すれば子どもをもつべきだ」という暗黙の性的役割規範や家族イメージがあり、「産むこと」を社会から求められることは、不妊当事者にとって「妊娠、出産」への強迫観念にもつながりかねません。

    その結果、追い詰められて高度生殖医療機関の入り口にたどりつく当事者カップルは多く存在します。
    しかし、問題はそれに留まりません。それによって、性意識の差から、不妊患者たちの家族間での関係修復困難な亀裂を生じることも起こりうるのです。何故ならば、妊娠を意識した「医療行為と指示」は主に女性に行われるため、女性はパートナーに「協力を要請する」パターンが生じることから、「生活するカップル関係」のなかに不妊治療が組み込まれることになり、この継続によって、カップルバランスが崩れることも少なくはないからです。

    <参考文献>
    荒木晃子「不妊心理に起因する『生殖医療の問題』に関する一考察」立命館人間科学研究、第16巻、2008年
    荒木晃子「不妊心理をめぐる『生殖と医療』の援助臨床実践報告」立命館人間科学研究、第18巻、2009年
    荒木晃子「不妊現象の構造化と臨床社会的概念に関する考察」立命館人間科学研究、第19巻、2009年

  • さらに患者―医療者関係に生じる問題は表面化していないという現実そのものだと考えています。
    一般に、医療者としての目標は、「患者を治療する」ことにあります。この「医療者の意識と行為」は、「患者に対しては治療を受動的に行使される立場とみなす」一般の医療モデルとなっています。しかしながら「不妊」は関係性や社会性が濃厚な現象であり、不妊治療が「家族の問題をはらむ社会性の強い医療モデル」であることを考えると、生殖医療に位置する医療者たりの「社会的役割」に対する認識が不十分であり、実際に「病を治療する医療行為」として不妊治療が行われていることが問題視されています。
    さらに、産科医不足の現状から、病院の経営上、産科と不妊治療を同時に行う施設も多いことが問題点としてあげられます。
    患者の心理面を鑑みると、願ってもお産ができない人、願わないのに妊娠した場合の堕胎のケース、出産が予定されている人など、全く違った状態の患者をひとまとめにすることは、さらなるストレスが生まれるという懸念が生じてなりません。

    <参考文献>
    荒木晃子「不妊心理に起因する『生殖医療の問題』に関する一考察」立命館人間科学研究、第16巻、2008年
    荒木晃子「不妊心理をめぐる『生殖と医療』の援助臨床実践報告」立命館人間科学研究、第18巻、2009年
    荒木晃子「不妊現象の構造化と臨床社会的概念に関する考察」立命館人間科学研究、第19巻、2009年

  • 反対に、医師側の悩みも伺えます。情報提供に際して重要なのは、「隠さない、ごまかさない、ウソをつかない」という原則があります。その対極にあるのが、その人のためを思って真実を告げないという対応なのです。これは医療側のパターナリズムとして批判されているのです。パターナリズムとは、よかれと思って自己決定権を奪うことです。

    当然のように、治療の副作用や治療実績についても全国平均とその施設とのデータを両方開示する必要があります。現在は、インターネットの普及などにより、素人であるはずの患者も専門的な知識やデータを直接的に入手することができます。素人にわかるはずがないという医療側の奢りは、治療の前提となる信頼関係の構築にとって、マイナスの効果しかもたらさないということを認識する必要があるのです。

    <参考文献>
    玉井真理子「不妊治療とカウンセリングマインド」『不妊カウンセリングマニュアル』メジカルビュー社、2007年

  • 医療現場において、「患者中心」という思想は、医療提供側のパターナリズムに対抗する思想として強調されています。基本的には消費者保護ないし、消費者中心主義に基づく文脈ですが、日本における不妊治療については、また異なった文脈があると考えられます。
    それは医学的なものだけではない社会・文化的な要素が大半を示しているため、医療側は「何をするか、何をしないか」という決断に介入するパラメータ(プログラムの動作条件を与えるための情報)数に注目する必要があるのです。
    不妊カップルは十分納得のいくような判断ができない場合が多いので、医療者側は情報を提供して、患者が自己決定するのをゆっくり待たなければなりません。これが患者中心主義の初めであると考えています。

    <参考文献>
    石原理「不妊治療と倫理」『図説よくわかる臨床不妊症学<一般不妊治療編>』中外医学社、2007年

  • 不妊に当事者たちがかつて不妊のために味わった不満・不安・不信・不自由・不利益・不確実・不平等・不足・不利など数えきれない多くの「不」の要素が存在し、当事者の「カップル・家族・医療従事者などの対人関係に強く影響を及ぼします。
    「子どもがほしいけれども妊娠しない」状況に対して、「子どもを求めるこころ」と「子どもを産めない・つくれないカラダ」の乖離現象がさらに、「願いのかなわない自分のカラダ」で生きることへの葛藤へとつながるのです。

    <参考文献>
    荒木晃子「不妊心理に起因する『生殖医療の問題』に関する一考察」立命館人間科学研究、第16巻、2008年
    荒木晃子「不妊心理をめぐる『生殖と医療』の援助臨床実践報告」立命館人間科学研究、第18巻、2009年
    荒木晃子「不妊現象の構造化と臨床社会的概念に関する考察」立命館人間科学研究、第19巻、2009年

  • 生殖医療は「保証のない治療契約」であり、妊娠せずに治療を終える可能性が高いのが現状です。
    不妊とは何かということを多くの人に知ってもらうことは、不妊に対する偏見のハードルを少しでも低くすることになるのではないかと考えます。しかし患者になることを促進しようとする意図はありません。そのような誤解は子供をもつことを強要することになりかねないと危惧しています。

    <参考文献>
    荒木晃子「不妊心理に起因する『生殖医療の問題』に関する一考察」立命館人間科学研究、第16巻、2008年
    荒木晃子「不妊心理をめぐる『生殖と医療』の援助臨床実践報告」立命館人間科学研究、第18巻、2009年
    荒木晃子「不妊現象の構造化と臨床社会的概念に関する考察」立命館人間科学研究、第19巻、2009年

  • 不妊であることに対して、社会の認識がいかに変化しようと、今、不妊を体験している苦悩は変わりがないのは事実です。故に自分自身で主体的にいかにハッピーに納得した人生を探していかなければならないと思います。

    しかし、社会の認識の観点変更や、その援助体制は変わらなくてはならないと感じています。
    今後さらに当事者のかたの声を取り入れ、カウンセリング体制を構築する一助になりたいと考えています。

不妊のカウンセリング体制を確立するための研究を行っております。アンケートへのご協力を心よりお願いいたしております。

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