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①
【一般血液般検査】
内科などの病気がないかを調べます。月経は低温期、排卵日、高温期に分けられますが、どの期間に行うか(月経周期)は関係ありません。【ホルモン値検査】
卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞ホルモン=エストロゲン、乳汁分泌ホルモン、黄体ホルモンなどを低温期・排卵期・高温期と、月経周期によってそれぞれ血中測定します。【超音波検査】
経膣超音波(超音波を発する器械を膣から挿入して内部を観察すること)で、子宮や卵巣・卵巣内の卵胞の発育、子宮筋腫や卵巣嚢腫などの有無、排卵日(卵子を排出する日)の予測、排卵確認、子宮内膜(月経とともに体外に排出される内膜組織)の測定などを観察します。
ホルモン値検査同様、月経周期によって調べる内容が異なります。【子宮卵管造影】
子宮内にカテーテルという細い管を挿入し、造影剤を注入してX線で子宮の形状、卵管の左右の通過性、癒着やポリープ(粘膜などにできる腫瘤)の有無などを観察します。卵管に閉鎖やつまり、癒着があると、痛みを伴う場合がありますが、造影剤を卵管に流し込むことで卵管が広がり、癒着が改善される場合も多くあります。この検査は、月経終了後の卵胞が成長する卵胞期に行います。【通水・通気検査】
子宮内にカテーテルを挿入し、通水であれば生理食塩水を、通気であればCO2ガスを送り込み、圧力の変化からその通過性を観察します。通水は軽度の癒着であれば改善する効果もあります。この検査は月経終了後の卵胞が成長する卵胞期に行います。
通水・通気検査は卵管造影検査の代わりとして行われますが、卵管造影検査は造影剤を流し込む間、X線を当て続けなければなりません。そのため被爆量が多くなるので、通水・通気検査のほうが一般的となりつつあります。【フーナーテスト】
排卵日前の子宮頸管粘液(子宮腔と膣をつなぐ頸管部分から排卵期に分泌されるアルカリ性の粘液のこと。糸を引くように伸びるのが特徴。排卵期にエストロゲンというホルモンによって分泌が増加され、精子を通過しやすくする作用がある。)が出ているときに性交渉を行い、4~12時間以内に粘液を採って、精子の状態を顕微鏡で観察します。その日の体調によって検査結果に変化がみられるため、3回ほど受けることが勧められます。3回とも不良の場合は抗精子抗体(女性の体内に精子が入ったときの免疫反応で精子を攻撃する物質)を検査し、陰性の場合は人工授精へ、陽性の場合は早めに高度不妊治療へとステップアップします。【精液検査】
3~5日ほど禁欲し、マスターベーションにより精液を採取後、できれば4時間以内に医療機関へ持ち込みます。顕微鏡で精液の量、精子の数、運動率、奇形率、直進運動性などを検査します。採精室がある医療機関では、初診の日に採取し、精液検査をするところもあります。不妊治療を始めるにあたっては、以上の7つの検査が最低限必要になります。
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【子宮内膜症】
子宮内膜症とは、子宮内膜および類似組織が、子宮内腔以外の臓器(卵巣や卵管、腹腔内、直腸などの表面など)に発生し、増殖する病気です。まれに肺や胃、腸、へそなどに同じ症状が出ることもありますが、骨盤内に子宮内膜組織ができたものだけを子宮内膜症と呼んでいます。【排卵障害】
排卵障害とは、排卵するまでの過程に異常があることで、卵胞が育たない、また、育ってもうまく排卵できないことをいいます。
排卵障害かどうかを簡単に見極める方法は、基礎体温を見ることです。排卵前には、卵胞刺激ホルモンが主に分泌され低体温となります。そして、黄体化ホルモンが分泌され、排卵を境に体温は上昇し、基礎体温は高温期と低温期との二相になります。しかし、排卵障害がある場合は二相にはなりません。また、月経不順が続く場合も排卵障害を疑ったほうがよいと考えられます。【卵管性不妊】
卵管とは、精子の通り道であり、卵巣から放出された卵子を取り込み、そこで受精した受精卵を子宮へと運ぶ細い管のことです。子宮の左右両側にあり、全長は7~12cmで、内腔は1mm前後しかありません。
卵管が癒着していたり、閉鎖していたり、もしくは炎症を起こしたりなどの異常があると、卵子が卵管内に入れなかったり、精子が卵子までたどり着かなかったりします。なんとか受精できたとしても、その受精卵(胚)は卵管を通って子宮へと移動するため、卵管にトラブルがある場合、胚が子宮内膜へと移動することが困難となります。そのような卵管のトラブルのことを卵管性不妊と呼んでいます。【着床障害】
卵子が育ち、きちんと排卵して受精した場合、その受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通って子宮内膜へと定着(着床)します。しかし、子宮になんらかの異常や問題がある場合、受精卵が最終的に着床できず、着床障害と診断されます。
その原因を掘り下げると、1、子宮筋腫 2、子宮腺筋症 3、子宮内膜ポリープ 4、子宮奇形 5、黄体機能不全 6、子宮内膜癒着、などがあげられます。【頸管因子】
頸管因子には、子宮頸管粘膜不全と抗精子抗体(精子免疫異常)があります。頸管とは、子宮の入り口で膣と子宮腔をつなぐ部分のことをいいます。通常、膣内は細菌の侵入を防ぐために酸性に保たれていますが、排卵期に卵白のようにプルンとした粘り気のある子宮頸管粘液(おりもの)が分泌され、アルカリ性へと変化します。この粘液には、精子の運動を促し、通りやすくする作用もあります。【機能性不妊】
機能性不妊とは、原因不明の不妊のことをいいます。不妊治療にあたってのさまざまな検査の結果、カップルがともに問題がないのに、なかなか妊娠に至らない場合、そして、不妊原因が明らかになり、それに対する治療を行っても妊娠が成立しない場合を機能性不妊と定義づけます。不妊症の原因のなかでも、全体の2割が機能性不妊といわれています。【男性不妊】
男性不妊の原因を探る検査には数種類あります。基本的な検査で、比較的手軽にできるのが精液検査です。3~5日ほど禁欲し、マスターベーションにより精液を採取後、顕微鏡で精液の量、精子の数、運動率、奇形率、直進運動性などを検査します。
この精液検査で問題がある場合は、無精子症(精液中に精子を全く認めない場合)、乏精子症(精子濃度が2000万/ml未満の場合)、奇形精子症(正常形態精子が15%未満の場合)、精子無力症(前進運動精子数が50%以下の場合)に分類されます。
症状によっては、白血球数や最近の有無などを観察する「尿道分泌液・前立腺液の検査」、一般精液検査で問題があったときに行われる特殊検査の「精子機能検査」、「各種ホルモン検査」と「負荷テスト」、「染色体検査」、精子形成にかかわる遺伝子を調べる「Y染色体微小欠失」、超音波、精管に造影剤を注入してX線撮影をする「精管造影」、精巣の細胞を採取し、精液中の精子の有無を観察する「精巣生検」などの検査へと進んでいきます。
男性側の不妊原因は大きく分けて、
1、精巣での精子形成障害
2、精子輸送路の閉鎖
3、精子機能障害
4、射精障害(逆行性射精を含む)または勃起障害(ED)
となります。<参考文献>
図/浅田義正『もう悩まない。赤ちゃんはきっと授かる』現代書林、P57、2006年
花岡嘉奈子『不妊症を治す本』マキノ出版、2009年
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【タイミング指導】
タイミング指導とは、医療機関で排卵日をより正確に予測し、それに合わせて性交渉を持つというものです。精子はセックスによって膣内に放出されるため、タイミング指導は不妊治療のなかでも最も自然に近いものとなっています。
男性側の精液検査に問題がなく、基礎体温がきちんと低温期と高温期の二相にわかれているようであれば、月経後、超音波で卵胞の大きさや内膜の厚さを観察し、場合によっては子宮頸管粘液検査、尿検査、血液検査などを行いながら、より正確な排卵日を予測します。
精液検査で異常があった場合は、基礎体温表が二相になっていない、もしくは初診から受けている女性側の検査で異常が見つかった場合は、タイミング指導の前に治療が優先になることもあります。このタイミング指導で6か月以上たっても妊娠に至らない場合は、排卵誘発剤を併用して指導していくこともあります。
タイミング指導とは、あくまでも自然周期(誘発剤などを使用せず月経周期でそのまま自然に卵胞を育てること)をベースとした治療であり、卵胞の発育によっては、クエン酸クロミフェン製剤などを服用して様子を見るという療法です。【人工授精(AIH)】
人工授精とは、採取した男性の精液を人工的に女性の子宮に注入することをいいます。少しでも多くの精子を受精の場所である卵管膨大部(卵管の入り口付近)に近づけることが目的です。
人工授精には、夫婦間で行う配偶者人工授精(AIH)と、夫以外の精子を用いる非配偶者間人工授精(AID)があります。【体外受精(IVF)】
体外受精とは、体内で行われる受精を体外、つまりシャーレの上で行い、受精卵を子宮内に戻すことをいいます。体外受精・肺移植法のことを一般的に「体外受精」と表現しますが、卵子を採りだしたのち、受精操作を行い、受精した卵子(胚)を子宮に戻すことから、正式には「体外受精・胚移植法」(IVF-ET)と呼ばれています。人工授精はあくまで精子を注入するだけで、受精は自力で行いますが、体外受精は受精させた受精卵を体内に戻すのです。
体外受精の対象になるのは、卵管性不妊、乏精子症、免疫性不妊症、原因不明不妊症(タイミング指導や人工授精を何回も行ったが妊娠に至らない)などの人が適応となります。【顕微授精(ICSI)】
顕微授精とは、顕微鏡下で一個の精子を卵子のなかに送りこみ受精させる方法で、採卵までの過程と移植の過程は体外受精と同様です。重度の受精障害で、これ以外の治療によっては妊娠の見込みがないか、極めて可能性が低いと判断される場合、顕微授精が適応されます。<参考文献>
花岡嘉奈子『不妊症を治す本』マキノ出版、2009年 -
高度不妊治療の代表として、体外受精の方法を図で表してみました。
採卵と胚移植に対しては手術同様の扱いになります。採卵とは言葉のとおり、卵を採取することで、ほとんどの医療機関が静脈麻酔を用いて行い、個人差はありますが、一般に高齢になるほどその数は少なくなると言われています。2007年(日本生殖医学会)の倫理指針により、多胎出産を回避するために1回に胚移植する受精卵の数が原則1個と限定されました。しかし、40歳以降の胚移植については、2個まで可能ということになりました。残りは凍結させて、次の周期になって解答して胚移植を行います。
<参考文献>
図/花岡嘉奈子『不妊症を治す本』マキノ出版、P68、2009年 -
これは、治療方針の手順です。検査や治療結果により、方針を順番ではなく、ステップアップするケースも稀ではありません。
まず、排卵に問題がある場合は、最初のステップから順に段階を踏んで治療を進めます。排卵誘発というのは、うまく排卵できない場合、排卵誘発剤という投薬をおこなうことです。それを使用することで、多胎妊娠、卵巣過剰刺激症候群という副作用があるという報告があります。
次に精液に問題がある場合、ステップを飛ばして、体外受精から行います。同じく卵管に問題がある場合も同様で、精子が少ない、または無精子の場合は最初から顕微授精という判断となります。【精液検査の基準値】 WHO(世界保健機関)
精液量/2.0ml以上
PH(ペーハー)/7.2以上
精子濃度/2000万/ml以上
総精子数/4000万以上
精子運動率/運動精子が50%以上
もしくは高速運動精子が25%以上
(射精後60分以内)
精子奇形率/15%未満
Kruger's Strict Criteria
(クルーガー氏による 厳密形態基準/
生殖補助医療技術による受精率成績から)
精子生存率/75%以上
白血球数/1000万/ml未満<参考文献>
花岡嘉奈子『不妊症を治す本』マキノ出版、2009年 -
この表はある事例を参考にしています。治療方法の相違や個人差がありますので、あくまで一例です。
まず、月経の開始から3日目に受診します。そこから卵胞を育てるための毎日の投薬と点鼻薬からはじまります。これには通院が必要になります。そして、子宮内にある卵胞がある基準に育った時点で採卵を行います。
その5日後、胚移植を行います。採卵が多くできた場合、残りは凍結保存をして、次期周期に胚移植を行います。胚移植が終了すると、多くの場合、毎日または定期的に体温を上昇させ、妊娠を継続する黄体ホルモン製剤の補充が行われます。この表から治療開始から採卵までが約2週間、胚移植から妊娠判定まで約2週間を要することがわかります。
故に継続的に長時間がとられること、仕事をしている女性にとっては治療と両立することが難しいということが不妊治療の苦悩のひとつであるのです。 -
高度生殖医療のかかる費用の一覧です。
これも事例を参考にしましたので、一例にすぎません。医療機関によって異なります。
実際さまざまな医療機関のHPなどで確認すると現在では上記以上の医療費がかかっているケースがほとんどでした。医療費がかかる理由は、内診や一部の投薬以外は保険外、つまり自費扱いとなっているからです。
このことからわかるように、治療に関して経済的な負担はかなり大きく、それが治療が成功もしくは断念するまで継続されるわけで、治療を受ける女性も治療に専念しようと思っても、仕事を辞められない現状もあるのです。